CDT 複合的理学療法について
リンパ浮腫で悩まれていた人は多かったものの、医療従事者の認知が遅れ、蔑ろになっていたのが現状です。2008年度の保健医療費の改訂では「複合的理学療法」の治療に関しては適応が見送られたものの、リンパ浮腫発生予防のための「リンパ浮腫指導管理」が新たに設けられました。この指導では「複合的理学療法」の説明が主体となっており、我が国でも標準的な治療法となりました。癌の手術によって生じたむくみを軽減し、精神的・肉体的苦痛を和らげ以前の生活を取り戻すことを目的に、当院を訪れてくださった患者さんと共に日々、診療を行っております。同時に一人でも多くの浮腫に苦しむ患者さんが適切な治療を受けていただけるために、治療に止まらず専門の治療家を 育成する教育機関としての活動も行っております。
「複合的理学療法」とは
集学的治療、複合的療法とは、ある病気や症状を治すという目的は同じでも、方法が異なる治療をいくつか組み合わせたものです。それぞれの治療が効率的に 行なわれると、その効果が他の治療にも良い影響を及ぼし結果として最も効果が得られる、という考え方を基本にしています。また実際に単独の治療だけでは、 期待する効果が得られないというのも現状です。一つ一つの治療は、解剖学的・生理学的・病理学的な論理に基づいて構成されており、いわゆる民間療法、代替 療法とは一線を画するものです。
実際には、以下の療法の組み合わせて治療を行っていきます。
また、この「複合的理学療法」の特徴の一つに「保存的療法」であることが挙げられます。これは手術により治療する「外科的療法」に相対するもので、手術をしないで薬を使ったり圧力や熱などの物理的な因子を利用したり、または運動により効果を期待する治療法です。
右上肢、複合的理学療法施行前(左)と 施行後(右)
徒手によるリンパドレナージ
リンパの流れを促進させる手技による治療法です。解剖学的な根拠に基づいて体系化された治療手技です。浮腫の部分だけではなく全身 のリンパの流れを考慮し治療を行っていきます。
こりや疲れをとるための一般の指圧やマッサージとは全く違いますし、最近、エステティックサロンやマッサージ院で使われている「リンパドレナージ」は、リラクゼーションの手技であり、ここでいう医療行為のそれとは全く異なるものです。
圧迫療法
「複合的理学療法」の専門セラピストによる適切なリンパドレナージュにより、今まで堅く張りつめた皮膚組織は、柔らかさ、弾力性を取り戻します。しかし、せっかくリンパドレナージをしても、放置すると、あっという間に元の状態に戻ってしまいます。再び組織にリンパ液が溜まらないように、外から包帯などで締め付けて圧迫していくこと(バンデージ)によって浮腫を減少させていきます。我々はこの治療法こそが複合的理学療法の中でも中核を成す手技と位置づけています。これなくしては浮腫改善の効果は望めない必須の療法です。しかし、その一方で、自分で行うとなると非常に困難な印象を持ちやすく、また圧迫による不快感が伴うことで、患者さんにとっては負担の大きい治療と感じられ、治療が成功するか否かのポイントとなるところです。私たちはこの治療法を徹底的にご本人、また可能であればご家族の方にご指導し、日常生活の一部になるようにサポートすることを目標にしております。
実際に患者さんがバンデージをいったん習得してしまうと何の抵抗もなく受け入れていただけるようになります。さらに患側が健側と同寸近くになると、精密な計測をおこない、そのデータを元に特殊なストッキング(ガーメント)を製作します。これにより日中の負担がかなり軽減し、QOL(生活)の質の向上が図れるようになります。
運動療法
圧迫療法を行ったまま運動を行うと筋肉の収縮・弛緩により、リンパ管が周囲から刺激されます。リンパ管の運動が盛んになるわけですが、このリンパ管の運動こそが、内部にあるリンパ液の流れを促進することになります。ドレナージュで軽減した浮腫をさらに改善することになるわけです。この運動療法は、特に特別な運動をすることではなく、筋肉の適度な収縮と周囲からのバンデージの圧迫により効果を期待するものですので、圧迫療法(バンデージ)下での、起立、歩行やつま先足立ち、上腕の回旋運動などで十分です。
皮膚と爪のケア
先ずリンパ浮腫の大きな災いとなる「蜂窩織炎」について、患者さんはその見識を高めることが必要です。浮腫を起こしている皮膚は非常に弱く傷つきやすくなっています。ですから「蜂窩織炎」にならないよう、日々の皮膚と爪のケアを学ぶべきです。
特に陥入爪(巻き爪)の方は、そこから炎症(蜂窩織炎)を引き起こす場合があるので、その治療も必要になってきます。
「治療する」ではなく「治療を学ぶ」
リンパ浮腫は「症状」であり「疾病」ではありません。複合的理学療法は、あくまでも症状の改善させるためのものであり、疾病を治癒させるものではありません。ですから、一定期間の治療によって「良くなった」からといって、完全に治ったわけではなく、それで終わり でもありません。治療をやめてしまえば元に戻ってしまうことになります。だからといって悲観されないように…。
良くなった状態を保つためには、その後も患者さんご自身、またはご家族の方が治療していけばいいのです。これがセルフケアです。決して難しいものではありません。当院で行う治療のなかで少しずつ覚えていきましょう。
結局のところ当院で患者さんに受けていただく複合的理学療法は、「患者さんにリンパ浮腫を理解し治療を実践していただく為の教育プログラムである」と言っても過言ではないでしょう。リンパ浮腫とその治療でわからないことは、どんどんご質問してください。
さあ、いっしょにリンパ浮腫の治療(勉強)を始めていきましょう
こんな時はまず医師に相談してしてください。
- 炎症の徴候(悪寒戦慄、発赤、発熱)を感じるとき。
- 浮腫を起こしている皮膚は非常に細菌感染しやすく、特に赤く腫れたり熱をもったりした場合は蜂窩織炎という感染症の可能性があるの で注意しましょう。
- 過って怪我をしたとき
- やはり怪我により細菌感染を起こしてしまいやすい為、要注意です。
- 腕または脚の痛み、圧痛が起きたとき
- 一般的にリンパ浮腫は痛みを伴うことはあまりありません。勿論違和感や、だるさなどの症状はありますが、強い痛みを感じたときは 注意してください。
- 皮膚に、いつもは見られない充血、うっ血を見つけたとき
- 治療の圧迫により循環不全を引き起こすことがあります。長い時間そのままにしておくと重篤な症状を引き起こすことがあります。
- 水虫の様な感染症がある場合
- むくみの治療中に悪化することがあるので、事前に治しておくことが必要な場合があります。
リンパ浮腫治療に関する講習会を随時開催しています。
医療に従事されている方を対象にフェルディークリニック、クローゼ T and C、で実践している「複合的理学療法」の講習会や研修を行っております。
また、フェルディークリニックでの研修のご案内もしております。